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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)11622号 判決

被告 足立総合信用組合

理由

一  昭和四五年七月一〇日、原告の取引先たる東京興産が同会社振出の額面二〇〇万円の約束手形を契約不履行により不渡にすることにし、同時に手形交換所の取引停止処分を免れるため、被告に委託して社団法人東京銀行協会に異議申立提供金として金二〇〇万円を提供するため右金員を被告に預託することになつたことは当事者間に争いがない。そして、《証拠》によれば、東京興産振出の前記約束手形は額面二〇〇万円、満期昭和四五年七月一〇日、支払地東京都足立区、支払場所足立総合信用組合(被告)本店なる手形(以下「本件手形」という。)であつて、原告が東京興産から取得し、株式会社誠文社に裏書譲渡し、満期に株式会社埼玉銀行(持出銀行)により手形交換に付されたが、振出人たる東京興産から受入銀行たる被告に対し契約不履行を理由とする手形金支払委託の取消がなされたので、被告はこれを不渡とし、埼玉銀行に返還したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二(1)  そして、《証拠》によれば次の事実を認めることができる。

原告はその取引先たる東京興産が本件手形不渡による取引停止処分を受け資金繰りに窮すれば、原告の同会社に対する債権が回収できなくなることを慮り、東京興産と協議し、東京興産が取引停止処分を免れるため被告に対して異議申立の委託をすること、これに伴い異議申立提供金に充てるため交付すべき本件手形金相当額二〇〇万円のうち東京興産の調達しうる五〇万円を除く爾余の一五〇万円を原告が出捐して被告に交付することとした(右一五〇万円は後に昭和四五年八月上旬ないし中旬頃原告の東京興産に対する貸金とし、原告の出捐を補填することが約定された。)。

そして、昭和四五年七月一一日原告代表者小椋義清が、同月一三日原告会社取締役総務部長前田誠一がそれぞれ電話で被告組合当座預金係職員平田満に対し、前記異議申立提供金の一部に充てるべき金員として一五〇万円を原告が清水厳(原告会社経理課長)名義で被告の取引銀行たる株式会社富士銀行三輪支店に振込むこと、もし右金員が異議申立提供金として使用されないときは原告に返還されたい旨申出たところ、平田がこれを承諾したので、原告は昭和四五年七月一三日株式会社富士銀行高槻支店に一五〇万円の振込を依頼し、右金員は同日同銀行三輪支店の被告口座に振込まれた。

このように認められ、証人光成光一、同平田満の各供述中右認定に反する部分は信用できない。

(2)  異議申立提供金は手形の支払義務者の支払能力を証明することを目的とするから支払義務者の資金が預託されることが必要であり、またそれが通常の事例であろう。しかし、支払義務者以外の第三者が支払義務者に対する取引停止処分を免かれさせるため、その出捐で異議申立提供金に充てるべき金員を預託することは第三者の支払義務者に対する信用の供与(換言すれば支払能力の充足)を意味するから、交換受入銀行において右提供金に充てるべき金員を受取り、これを提供するということは支払義務者の支払能力を証明する目的に背馳するものではない。このように考えると、本件において、被告が第三者たる原告から異議申立提供金の一部に充てるべき金員の預託を受けたと認定することは不合理ではないとすべきである。

(3)  《証拠》によれば、被告は原告の預託金を東京興産から異議申立提供金の一部として交付された五〇万円と一括して東京興産の別段預金として扱い、その後昭和四五年八月三日東京興産が再び不渡を出すや、同会社との取引約定に基づき右別段預金を被告の同会社に対する貸付債権の弁済に充当した事実が認められるけれども、被告が原告の預託金を東京興産の別段預金として扱つたのは、通常金融機関が異議申立の委託を受ける場合手形の支払義務者をして手形金相当額を預金させるという事務処理をしているところから、本件の場合も平田がこれに従い原告の預託金についてまでそのような形式をまとわせたにすぎないものと理解すべきであり、該預金を東京興産に対する貸付金の弁済に充当したのは被告が右事務処理の形式に自ら惑わされたか、もしくは右形式を奇貨として貸付金の回収を図つたものと認められる。従つて、右別段預金の開設並びに貸付金の弁済充当の事実は原告が異議申立提供金の一部に充てるべきものとして預託した旨の前記認定を左右するものでないとすべきである。

三  前記一五〇万円が異議申立提供金として使用されないで終つたことは当事者間に争いがない。そして、原告代表者小椋義清本人尋問の結果によれば、原告が昭和四五年八月五日頃被告に対し預託金一五〇万円の返還を催告したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

四  以上の事実によれば、原告の本訴請求は理由があるから認容

(裁判官 蕪山厳)

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